家族信託を始めるにあたっては、「信託財産」の内容を考え、その運用方法を定めていくことになります。
信託財産の内容次第で受託者のする仕事内容は変わりますし、信託の仕組みに適さない財産については信託財産とすることはできません。そこで「何を信託財産にできて、何を信託財産にできないのか」を知っておくことが大切です。当記事で信託できる財産を紹介していきます。
信託できる財産
信託財産に組み入れることができるのは、①受託者(財産の管理等を行う方)に所有を移すことができる財産であって、②管理・運用が可能な財産です。
基本的にほとんどの財産が①と②を満たします。金銭はもちろん、居住用の土地や家屋、賃貸用の建物、自動車、有価証券、その他さまざまな財産を信託することができます。債権についても仕組みとしては不可能ではありません。
実際のところよくある信託財産は、「不動産」「現金」「未上場の株式」です。
不動産を信託する例
家族信託の仕組みがよく使われる、有効活用できる例が「不動産」です。
収益性のある建物、アパートなどを持っていたとしましょう。
収益を出し続けるためにはオーナーである所有者が適切な運用を継続しなければなりません。しかし、オーナーが高齢になってくると判断能力が衰え、適切な管理等ができなくなる可能性も高まります。
とはいえ、不動産を譲渡するとなれば譲り受ける側に大きな税負担がかかってしまいます。また、不動産の所有者が変わるとそこから生じる収入についても基本的には所有者のものとなります。
「生きている間は賃貸収入から生活費を出したい」というニーズに応えるには、「管理を人に任せて利益については自分が取得する」ための仕組みが必要であり、これを実現するのが家族信託なのです。
例:Aという方が収益物件を所有
- Aが委託者兼受益者、Aの長男Bが受託者と設定する。
- 収益物件の運用をBが担うが、そこから得られる利益はAのために使う。
- Bは一部報酬として金銭を受け取り、Aが亡くなった後はBが取得する。
以上のルールを定めたとしましょう。
適切に家族信託の設計を行うことでAが望む収益物件の運用が可能となり、Bも報酬を得ながら将来的に当該物件を取得することが可能になります。
Aが存命のうちにBは運用を始めることができますので、安心して当該物件を扱うこともできるでしょう。相続のように突然財産を取得することになると引き継ぎが大変ですが、家族信託なら落ち着いて家族に財産を渡すことができます。
信託できない財産
信託できない財産もありますが、その多くは仕組み上・理論上信託することが不可能なわけではなく、「信託財産とすることを認めてもらえない」ということが原因にあります。
例えば「預金債権」はその1つです。
お金そのものではなく、預けたお金に係る債権を指していることに留意してください。この預金債権も理論上は信託することが可能ですが、金融機関との取り決めで譲渡することが認められていないケースが多いのです。
信託するときは受託者に所有権が移りますので、譲渡禁止特約があるときは信託財産とすることができなくなります。
※預金を引き出して、現金を信託することは可能。
「投資信託」についても同様です。証券会社との契約に基づいて信託することができないことが多いです。
「農地」も要注意です。他の一般的な不動産とは異なるルールが適用され、所有権の移転については農地法に基づく許可を得なければなりません。信託をしようとするときも、許可が得られなければ信託財産には入れられません。
さらには「借金」などのマイナスの価値を持つ財産も信託できない可能性があります。債権者側からすれば、安易に債務者を変更するわけにはいかないからです。ただ、やはり借金などに関しても相手方が認めるかどうかが重要といえます。
商事信託では信託財産の幅が狭まる
受託者側の問題で信託できないケースもあります。
そもそも信託は公的な制度ではなく、私人同士の交渉・契約に基づいて開始するものです。そのため家族信託を始める場合も受託者となる方の同意が必要であり、勝手に信託財産の内容を委託者が決めることはできません。
商事信託の場合は特にそのルールが厳しくなります。商事信託を簡単に説明すると、「信託銀行などの信託を業として行う者を受託者とするときの信託」といえます。
家族信託のような個人間で交わす信託(民事信託)であればある程度柔軟に対応してくれますが、業者が相手となれば、相手方の方でルールがきっちり決まっていることが多いのです。
そこで例えば信託銀行と信託を始める場合だと、主に一定額を超える「金銭」が対象となります。信託会社によって信託できる財産に違いがあり、金融資産、収益不動産なども対象になることはあります。
しかし非上場の株式や自宅として個人的に所有する不動産など、対応してもらえない財産の種類もたくさんあります。
以上をまとめると、実務上、信託財産にできるかどうかは「受託者が信託することについて認めてくれるかどうか」、そして「所有権の譲渡に許可が必要な財産かどうか」が判断ポイントになるといえるでしょう。
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