認知症などで判断力が衰えると生活に必要な行為(契約など)が難しくなってしまいますが、そんな方をサポートするための「成年後見制度」があります。家族信託でも認知症対策をとることはできるのですが、両者には対応できる範囲などに大きな差があります。
当記事では特に自由度の違いに着目し、成年後見制度と家族信託を比較します。

成年後見制度の概要
成年後見制度を利用すれば、判断力が衰えた方の法律行為をサポートするための後見人が選任してもらえます。
騙されて契約を結ばされてしまったり、大事な資産を売却してしまったり、大金を使い込んでしまったり、といった事態を避けるために後見人が法律行為の取消などを行います。
同制度には「任意後見」や「法定後見」の2種類があり、さらに法定後見には、被後見人(支援対象者)の判断力に応じて後見・保佐・補助の3段階の類型が用意されています。この種類や類型に応じて後見人等のできることにも差があるのですが、総じて「被後見人等の利益を守ること」を目的としていて、そのために必要な範囲内でのみ権限が与えられます。
成年後見と家族信託で自由度を比較
家族信託でも成年後見制度でも、ざっくりと「財産の取り扱いを他人に任せられる」という特徴を持ちます。
しかし自由度においては家族信託の方が高く、例えば財産管理や財産の承継、開始のタイミング、継続する期間などに関して成年後見制度でできることは限られています。
財産管理の柔軟性

家族信託の方が財産管理の柔軟性が高く、当事者間で交わす契約により管理や処分の方法について自由に定めることができます。株式や不動産などの積極的な資産運用についても定めることができます。
一方、成年後見制度では本人の利益のためになる行為しかできず、積極的な資産運用にはあまり対応できません。不動産の売却など、一定の行為については裁判所の監督も受けることになり、柔軟性はあまり高くありません。
財産承継への対応
成年後見制度では本人の利益が重視されますので、その後の財産承継についてまで対応することはできません。
一方、家族信託では財産の承継先まで指定することができ、委託者が亡くなった後のことまで指定が可能です。そのため遺言書の代わりとして家族信託を活用し、相続対策をとることもできます。
また、家族信託の仕組みを活用して「事業承継」を行うことも可能です。株式をいきなり後継者に贈与するのではなく、信託という形をとることで一定の権限を先代の経営者に残しつつ事業承継を進めていくことができるのです。
今すぐのバトンタッチが難しいというケースでは信託による事業承継も考えてみると良いでしょう。
開始するタイミング
成年後見制度に基づいて後見人等が権限を持ち、被後見人をサポートし始めるのは、本人の判断力が衰えてからです。
一方の家族信託は契約さえ交わすことができればいつでもその効力を生じさせることができます。好きなタイミングから開始できますので、この観点からも自由度が高いといえます。
ただ、「すでに判断力が衰えている場合」は別です。
家族信託は当事者間の契約締結を基礎とするため、契約が有効に成立しないといけません。すでに認知症となり有効な契約が交わせないほど判断力が落ちているときは、家族信託を始められません。
しかし成年後見制度のうち法定後見であれば家族等が家庭裁判所に申し立てを行い、事後的にでも支援を開始することができます。
この観点では、成年後見制度の方に高い自由度があるといえるでしょう。
継続する期間

家族信託は継続する期間についても自由に定めることができます。特定の日付を指定してその日まで有効と定めることもできますし、当事者が亡くなるまで有効と定めることもできます。
一方の成年後見制度は、本人の判断力が回復する場合を除いて、本人が亡くなるまで一生その効力が継続します。本人がその期間を定めることはできませんので、期間についての自由度がありません。
生活環境の確保には成年後見制度で対応
自由度に着目してみると家族信託の方が優れているように見えますが、それぞれ対応できる範囲に違いがありますので単純に「家族信託の方が良い」と決めることはできません。
実際、生活環境の確保を目指すなど一定の場合には成年後見制度で対応する方が適しているケースもあります。
成年後見制度での対応が適しているケース | |
|---|---|
①生活のサポートをしたいとき | ・成年後見制度は身上監護に適している。 ・入院や入所のための契約、手続、医療費の支払いなどの身上監護にあたる行為は後見人等でなければすることができない。 |
②すでに判断力が低下しているとき | ・すでに認知症が進行しており信託契約を有効に交わすだけの判断力が残っていないときはサインをしても契約は無効となる。 ・法定後見にあたる後見、保佐、補助であれば事後対応もでき、本人以外が申し立てをすることも可能。 ※補助の場合は本人の同意が必要。 |
どちらの仕組みを活用すべきか、あるいは併用すべきかどうかなど、アドバイスを求める方は司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
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