家族信託は信託法の改正によって現実的な活用が可能になった制度です。財産の管理や遺産承継分野での活用が主に期待されており、当事者同士で契約を行うことによって柔軟な活用が可能です。この制度は誰にでも活用することが可能です。

制度の特徴としては商事信託などとは異なり、親族などの身内に財産を託すことから手数料などの費用の負担がほとんどないという点があげられます。そのほかにも、これまでの成年後見制度や遺言では難しかったことを成し遂げることができるため、それらを補う制度としての活用が期待されています。

一方で、それら制度にできて家族信託にはできないことも存在しています。そのため、家族信託をしっかりと理解し契約を作っていくことのできる専門家に任せることが求められます。

家族信託とは

家族信託とは自分自身で財産を管理するのが困難になりそうな場合や、自分が亡くなった後に財産を託していきたいといった場合に財産管理や遺産承継を行うツールとして近年注目を集めています。家族信託は成年後見や遺言の代替としてだけではなく、ペットの面倒や永代供養、事業承継を行っていく手段としても活用が可能です。

家族信託にはいくつかの機能があり、それによってこれまでの制度では成し遂げられなかったことが実現できるようになっています。例えば受益者を連続して承継していく機能では、自分が受益権を渡していきたい人物をあらかじめ指定し、その意思を長くにわたって遺していくことが可能です。また、名義集約機能なども存在し、相続で起こりがちな不動産の売却が行えない凍結などをこれによって防ぐことができるようになりました。

成年後見と家族信託の違い

成年後見は、法的な行為を行っていくための判断が難しいと考えられる人を保護するための制度です。主に認知症の方などを保護するために用いられており、財産管理や身上監護などを成年後見人が行うことになります。この制度を活用することによって、自分だけではうまく生活を成り立たすことができない方でも、安全に保護されながら生活を行うことができました。

一方で、財産の管理や運用の面では大きな制約が存在します。成年後見では財産の現状維持を基本としており、不動産の処分といった事項になると家庭裁判所の許可を必要とするなど、実質的に財産が凍結状態になることも少なくありませんでした。

家族信託では、契約という行為によって財産管理の内容が決まっていきます。そのため当事者間で財産の運用や処分について定めていた場合には、受託者の権限でこれらを行うことができます。これによって非常に柔軟な財産管理が可能になりました。一方で身上監護については成年後見制度を活用する必要が出てくるため、これらを有効に両立させていくことが求められます。

家族信託と民事信託の違い

家族信託と民事信託という二つの言葉があって困惑される方も少なくはないかと思います。この二つは明確に法的な名称があるわけではなく、基本的には同一のものです。一般的には民事信託と呼ばれています。その中でも、民事信託では信頼のできる家族や親族、友人といった身近な人物に財産を託すことがほとんどです。そのため、こうした特性から世間では家族信託と呼称されることが多くなりました。

一方でこれらと商事信託はおおきくことなります。商事信託の場合には、信託銀行の様な金融機関に対して手数料を支払い、財産を管理してもらいます。こうすることによって家族などに負担をかけることなく自身の財産を安全に管理してもらうことが可能になります。

受託者がいるかどうかや、手数料をどうしていきたいか、信託する財産の大きさはどうなっているかなどを把握し信託の種類を選択していきます。自身での判断が難しいことも少なくないため、まずは専門家に相談してみることが確実です。

家族信託が活用されるケース(相続税)

家族信託は相続の場面で大きな力を発揮します。例えば、自分が子供の次はその孫にある特定の財産を承継していきたいと考えたとします。これまでの制度では二次相続はできませんでしたが、家族信託では受益者連続型信託という制度を利用することによってそれが実現できます。こうした制度の活用によって自分の意志を何代にもわたって遺していくことが可能です。

そのほかにも、不動産の凍結などを防ぐことができます。一般的に不動産が相続された場合には、名義も分割されます。そのため処分などに踏み切る場合には、権利者全員が集まり合意を得る必要があります。しかし、それが叶わないことも多く実質的に凍結状態になることが少なくありません。家族信託では、一度合意を取り名義を一人に集約しておくことで、こうした状況を防ぐことができるのです。

家族信託が活用されるケース(認知症対策)

認知症における対策でも家族信託を有効に活用することで、多くの問題を解決することができます。従来では認知症になった場合には成年後見制度に頼るほかありませんでした。そのため、株をやっている場合や不動産を所持している場合など、財産管理で不都合が生じる場面も少なくありませんでした。家族信託では、契約時にこれらを考慮することで、柔軟な財産管理を可能にします。

こうした財産管理を行うには、契約を行う際に受託者が運用や処分を行っていくことができる旨を盛り込む必要があります。また、注意点として、家族信託の契約を結ぶ際には認知症が発症する以前に行わなくてはなりません。認知症を発症してから締結した契約は無効になる場合があるため、財産管理については早め早めに専門家に相談し、対策していくことが求められています。

家族信託のメリットとデメリット

家族信託にはいくつかのメリットやデメリットが存在します。

メリット

1.費用負担が少ない
家族信託では身内の様な親しい人物に財産管理を任せるため、商事信託などとは異なりほとんどの場合には手数料がかかりません。そのため費用面の心配なく利用することが可能です。
2.柔軟に内容を決められる
家族信託は解決したいことに関して、当事者同士で方針の決定を行い契約内容を決定します。そのため、個々人にあったものを作成していくことが可能なのです。

・デメリット

1.専門家が多くない
家族信託は本格的な活用が始まってまだ10年程度と比較的若い制度です。そのため前例が多くなく、扱いに長けた専門家も多くありません。しかし、家族信託は契約書によって大きく異なるため信頼のおける専門家に託すことが不可欠です。
2.受託者の負担が大きい
受託者は大きな責任を基本的には報酬等もなく負うことになります。このような背景から民事信託は家族などの様な人物に託す家族信託になることが多いという理由にもなっています。

家族信託の費用相場はいくら?

家族信託にかかる主な費用

家族信託には、以下の費用がかかります。

●信託契約書の作成費用
家族信託の契約書の作成費用は、多くの場合、信託財産の評価額によって決定されます。具体的には、信託財産の評価額に対して、0.3%~1%程度が作成費用となります。

●公正証書の作成費用
家族信託の契約書は、必ずしも公正証書によって作成しなければならないわけではありませんが、公正証書として公証人に作成してもらうことが一般的です。これを専門家に依頼した場合には、10~15万円の依頼費用がかかります。
また、公正証書の作成をする場合は、契約書に記載された信託財産の金額に応じて作成手数料が発生します。信託財産の金額や契約内容によって増減はありますが、3~10万円かかると想定しておきましょう。さらに、証書1枚につき250円の交付手数料がかかります。

●登記にかかる費用登記代行手数料
信託財産に不動産がある場合、信託登記を行う必要があり、それを行うには司法書士に依頼することが必須となります。その登記代行手数料の相場は、信託財産として登記する不動産の数等によって増減しますが、1件あたり5万円~10万円程度になります。さらに、委託者や受託者、受益者の氏名、住所、信託の目的などを記した信託目録登記で10万円程度の費用がかかります。

●登録免許税
信託登記をすると登録免許税が課税されます。土地は、固定資産税評価額の0.3%(令和3年3月31日まで。令和3年4月1日からは0.4%)、建物は固定資産税評価額の0.4%が登録免許税としてかかります。

●受益者代理人・信託監督人への報酬
信託契約の際に受益者代理人や信託監督人を設置した場合には、それぞれへの報酬が発生します。受益者代理人や信託監督人の報酬額は、月額1万円程が相場となり、また、信託監督人を司法書士に依頼した場合は、毎月数万円の費用が必要になります。

家族信託にかかる費用の相場は?

家族信託は、基本的には高額な費用は発生しませんが、上記のような費用が発生します。そのため、信託財産の規模によっても金額は変動しますが、一般的な家庭の家族信託にかかる費用の相場としては、信託財産に不動産がない場は30~70万円、信託財産に不動産がある場は50~100万円程度となるでしょう。

中野司法書士事務所は、東京都千代田区を中心に、相続問題に幅広く対応しています。相続登記や遺言書、相続についての生前対策でお悩みの際は、お気軽に当事務所までご相談ください。

家族信託の手続きの流れ

家族信託を締結するまでには主に以下の様なプロセスをたどります。

・相談
お客様がどのような課題をお持ちなのかを聞き出し、潜在的な課題なども抽出していきまっす。この場合にはまだ家族信託を利用するとは確定していません。

・見積もり
家族信託を利用することになり、おおまかな方針が決まりましたらお見積りとなります。

・当事者の確定
家族信託では委託者、受益者、受託者といった当事者が登場することになります。そのほかにも当事者は出てくることがありますが、基本的にはこれらの当事者を確定させます。

・方針と意思の確認
家族信託の方針や意思確認を行います。家族信託は契約行為です。そのため当事者の意志が固まらなければ締結することはかないません。ここでは合意ができるように綿密なすり合わせを行います。

・作成
確認が取れた場合には契約書の作成に入っていくことになります。家族信託では契約書の内容が極めて重要です。この場合にミスなく先を見通して作成のできる専門家の力が求められることになります。

・締結
契約書の内容を確認し、合意が取れた際には家族信託の締結となります。これによってその後は契約内容に沿って、財産の管理などが行われることになります。

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