相続が発生すると被相続人(亡くなった方)の財産(遺産)は相続人に承継されます。
不動産についても、もちろん相続人に承継されます。被相続人が所有していた自宅の土地や建物、賃貸アパートなども相続の対象です。
不動産を相続することにより相続人は大きな財産を取得できますが、“相続人が複数いる”場合にはトラブルが生じることもあります。
具体的にどのようなトラブルが起こるのか、トラブルを避けるためにはどうすればいいのか、解説していきます。
相続人が複数いるときは不動産を共有することになる
被相続人(亡くなった方)の財産は、基本的に相続人のものになります。
相続人が1人しかいないときは被相続人の財産をまるまる全て受け継ぎます。
他方、相続人が複数いるときは、相続人全員で財産を“共有”することになります。
これは民法に規定されている、法律上のルールです。
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
相続財産が不動産であるときも同じです。
遺産に家屋や宅地などが含まれているときは、それらを複数の相続人で共有することになります。
不動産を共有することの問題点
法定相続分で相続した場合、不動産を法定相続分で共有することになります。この場合、相続登記の申請は、複数の相続人うちの誰か1人からでもできます。
1人で登記申請をしても、相続人全員のために法定相続分での登記をすることになります。自分の持ち分についてだけの相続登記はできません。
しかし、複数の相続人の共有だと、相続人1人で売却し処分をすることはできなくなります(自分の持分だけを処分することはできますが、現実問題、買い手はつかないはずです)。売却など重大な決断をするには、共同相続人全員で話し合い“合意”しなければ行うことができなくなります。
相続人の数が増えるほど“合意”が難しくなってきます。
また、取り扱い方法をめぐってトラブルが起こるリスクも高まってしまいます。
さらに、相続人間での共有状態に問題がなくても、その相続人が亡くなり、さらに相続が起こると、より複雑な共有状態となってしまいます。面識のない者同士で共有する事態にもなりかねません。
不動産の共有を避ける方法
相続に対して何らアクション起こさないときは不動産を共有することになりますが、「不動産の所有者が生前に遺言書を作成しておく」あるいは「相続開始後に相続人全員で遺産分割協議を行う」ことで共有を避けることが可能です。
遺言書を使って遺言者が指定する
不動産を所有する本人が事前に遺言書を作成し、「甲土地は子Aに譲る」などと遺言を残しておけば、共有を避けて特定の相続人に取得させることができます。
これにより、自身の死後、相続人間でトラブルが起こる可能性を下げることが期待できます。
遺言書があっても、遺産分割協議で相続人全員の意見の合致があれば遺言書とは異なる内容で不動産の取得者を決めることもできなくはないですが、基本的には遺言書が強いです。
ただし、遺言書は法律に従い適式に作成されていなければなりません。
適式に作成されていない場合、遺言書は無効になってしまいます。
また、遺言書の内容に不満を抱く人物(一般的には相続人でしょう)に「その遺言書は無効だ」といった主張をされることになってしまいます。この場合、遺言無効確認訴訟という裁判で行われます。
そのため遺言書を作成するときには、専門家に相談し作成のサポートをしてもらった方がいい場合もあります。
遺産分割協議で相続人が決める
遺言書が作成されていない場合でも、相続人全員で遺産分割の協議を行い、誰がどのように遺産を取得するか決めることができます。
相続人全員が納得できる遺産分割の協議をすることができれば、共有状態を避けるように決めることもできるし、将来的なトラブルも起こらないようにできるでしょう。
不動産の遺産分割の方法
遺産分割協議で不動産の取得方法を話し合う際、共有のほかに、次の3つの方法を検討することになるでしょう。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
各分割方法の利点や問題点について紹介します。
現物分割
現物分割はもっともシンプルな遺産分割の方法です。
相続人のうちの1人が単独で取得する、あるいは土地を分筆してそれぞれが単独で取得する、といったやり方です。
現物分割をすれば権利関係が明瞭になります。
ただ、遺産の総額に対して不動産の占める割合が大きいと“相続人の間で平等に分けるのが難しくなる”という問題を生じます。
不動産は、現金と違って、細かく分けにくいからです。
例えば自宅(実家)が唯一の遺産だとすれば、それを承継し取得した相続人(例えば長男)だけが財産を得ることができ、他の相続人は財産を得られなくなります。一般的には現金や預貯金なども残っていると思われますが、不動産は他の財産よりも価額が大きい傾向にあるため、相続人の間で不平等が生じやすいです。
これが現物分割の問題点といえます。
そうなると、現物分割では遺産を分けられないということになります。
ただし、不動産は平等に分けられないのが当然であるし、自宅(実家)がなくなるのは淋しいということで、他の相続人が不平等な遺産分割に納得すれば、全然これでいいのです。
代償分割
代償分割は、現物分割による不平等の問題を解決できる遺産分割の方法です。
不動産を取得した相続人が、他の相続人に対して代償金を支払うことでバランスを取るのです。
自宅(実家)をそのまま残すことができますし、不動産を取得しなかった人物についても納得のいく遺産分割の方法といえるでしょう。
ただし代償分割にも問題点があります。
それは“代償金を支払う相続人にかかる現金の負担が大きい”ということです。
相続に際して数百万円、場合によっては数千万円もの現金を支払うことになります。
不動産の価額が小さいのであれば対応できるかもしれませんが、あまりに代償金の額が大きいと代償分割が現実的ではなくなってしまいます。
とはいえ、不動産の他にも大きな遺産があれば、それらを他の相続人に取得してもらうことで、代償金(現金の負担)を軽減することも可能です。
仮に代償金が支払われなかったとしても、その債務不履行を根拠に遺産分割協議の無効を主張することはできません。不動産を取得する方が本当に現金を支払えるのか、資力にも着目して代償分割をするかどうか、考えることが大事です。
換価分割
換価分割は、遺産をそのまま分割せず、売却することで得た金銭を分割する方法をいいます。
不動産の共有問題を避けられることはもちろん、相続人間の平等の実効性を高められます。現金の負担ができる人物も必要ありません。
換価分割は不動産を取得したい人物がいないときにもおすすめできる選択肢です。「誰も使わない土地がある」「被相続人が住んでいた家を使う予定がない」「賃貸アパートがあるが、運営できる人物がいない」といったケースでは、無理に不動産を取得するより売却した方が良いかもしれません。
しかしながら、換価分割には“売却に時間と手間、そして費用(不動産業者への仲介手数料等)がかかる”という問題点があります。
そして、すぐに不動産を売却することができない場合もあります。当該不動産を欲しいと思う買い手がいなければ対価たる金銭は入ってきません。
不動産相続の手続で注意すべきこと
不動産に限らず、相続により財産を取得したときは、その財産に応じた相続税が発生します。相続税の基礎控除が適用される結果、一定額以上の遺産がなければ納税の必要はないですが、都心の不動産は数千万円もの価額になることもあるため、相続税が発生する可能性が高くなります。
そこで遺産分割の手続にばかり気を取られるのではなく、相続税の申告手続きなどにも留意する必要があります。
この点、現物分割であれば相続税の問題もシンプルです。
一方、代償分割のときは代償金を支払った者は代償金の価額を控除することになり、代償金を受け取った者はその分を加算して相続税を計算しないといけません。
換価分割の場合、換価により分配された金銭を基準とするのではなく、相続開始時での不動産の価額を基準に計算されます。
不動産相続では相続税の計算方法も複雑になってきますので、税理士に相談するなどして正確な税額を計算してもらうようにしましょう。
また、不動産を取得した方は登記手続きも忘れずに行うよう注意しましょう。
令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されます。「相続で取得した不動産については登記を行うもの」と認識しておくべきです。登記の手続に困ったときは登記のプロである司法書士を頼ることもできます。まずは気軽に相談をしてみると良いでしょう。
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